BL短歌(〜550)

0501.幸福の死骸を敷いてきょうだいは桜の枝で肩を寄せあう

0502.その生をゆるそうという意を込めてあいしているよさあいきなさい

0503.もういないひとの血肉をたべている書庫のアルミの梯子の上で

0504.十枚の貸出カードを辿りきるまではあなたは失われない

0505.本棚の影であなたに触れたくてあなたになる練習ばかりする

0506.完全に愛せるものに自我はなくあなたはそこで眠りつづけよ

0507.うつくしいひとよあなたとの国の鏡を捨てて恋をしにいく

0508.女なら躊躇わずその喉元を切り裂けたろうくちづけながら

0509.もし僕が女だったら余さずにあなたのものになれただろうか

0510.やさしさで終われるだけの命ならどうして僕は愛するのだろう

0511.渦を巻く排水口の赤と白 十一歳は子供ではない

0512.先輩の体温ならば忘れなさい四月に降ればすべて淡雪

0513.彼の乗る飛行機が北極星と思い込んだら世界の果てへ

0514.春驟雨 終わりの知れぬ冷戦のさなかで視線が交わるときに

0515.詮索をしたがるみにくい僕のためきみは贄にはならないでくれ

0516.アルミブランケットに包まれば零下39度の夢をみるのだ

0517.何もかも見届けるその瞳にはほんとの別れは映らないまま

0518.ねえ君を標本にして廃屋の研究室に置き去りたいよ

0519.巡礼のごとくに杖にすがりけりリハビリテーション病棟の午後

0520.風葬のまっさらな骨を夢想して君についばまれる官能か

0521.だけど、もし、たら、れば、って言ってみていまの君にはきっと会えない

0522.プロテイン飲んだり筋トレ励んだりそーゆーとこが可愛いんです

0523.憎まれず生きてみたいと笑うしか知らないうつくしいその王子

0524.若き日の過ちだよと秘めるうちふたり白髪になってしまった

0525.あの人がお山で死んだあとのこと兄は座敷牢でほほえむ

0526.俺はもう殺したいのか死にたいかお前が憎いかわからないのだ

0527.飴玉は砕くものだね口の中血に溢れたら甘いって言う

0528.うすずみのつつとぼやけて消えていく夜明けの川に坑夫らの足

0529.人類の滅びを免れえぬというさだめにおいて精を放とう

0530.海岸線くもりさかしま渦巻いて子はしゃぼんだま吹くしか知らぬ

0531.少年として少年を抱くときまみえるものは水底の月

0532.その水を濾過させなさいし続けた純水だけで息をしなさい

0533.極北で獣の皮を剥ぎながらまだ死ねないと嘆くね いいよ

0534.生き残る罪悪感に潰されてしまったときは殺してあげる

0535.君のため死んだっていいぼくなのに真っ赤な川のほとりを歩く

0536.揺るぎなくうつくしいその眼差しに名を付けるなら喪失という

0537.まだ若い男は知っているわらうほかわらうほか紛れぬものを

0538.遠くへとただ遠くへと僕たちは来世は風になりたいですね

0539.透明なものに風に雨粒に割れた硝子の破片のように

0540.愛を知るときはたしかに憎しみも傍らにあり 葬列の午後

0541.無精子症だったらいいねひかりゆく円錐のその一点を見よ

0542.こうちゃんの和毛は冴えてみどりの日ひいじいちゃんが自殺したんだ

0543.悪霊の豚の口よりのたまはくわれまた神を恋うるものなり

0544.まなざしに耐えかね椿は落ちるだろ君が振り向かないまでの恋

0545.ブルーブルー 雲の真中に矢を放ち降りくるもので口を濡らせよ

0546.聖別の青とその身を投げ出せば君の背中の傷は輝く

0547.銀色の、青年チューブにつながれて真実のものしかふくめない

0548.また濡れてしまった爪でえ、い、え、ん、に背中の熱を君はうばった

0549.きみはまたうしなうのだね杯のクラックのよな口元である

0550.揚げひばり桜の国の君なれば老いゆくことの幸いであれ

BL短歌(〜500)

0451.屑石をたましいぶくろに詰め込めば傷つかないと信じてた日々

0452.あんなにも溶けあっていたぼくなのに君の言葉がもう響かない

0453.世界でも君でも(世界は君だけど)あいしているんだ性欲でなく

0454.壇上で兄はうっとり目を閉じて裂かれることを待つしろい喉

0455.長袖の下は青あざまだ人の言葉も知らず 愛を教えて

0456.弟はわらう 見えない友だちが彼を支えて歩ませるから

0457.春は来ぬ こたつ布団にくるまって猫のことばでがあがあと鳴く

0458.壊れゆくものその細い輪郭がふるえる夜にふたり黙った

0459.泣いても良い、泣いても良いんだ、たのむから悲しむことを我慢しないで

0460.それでもなお何を知覚することもなく零れ落ちつ涙はきれい

0461.これからは何人分の荷を負うの骨のかたちをなぞれる背中

0462.鈴を振るやうに蒼薔薇割れたので眼は嘘をまことと語る

0463.金鵄章パジャマの胸に縫い付けた祖父の眠りの隣でゲーム

0464.英雄に憧れるころ少年は祖父の右手の銃創を知らぬ

0465.半世紀前には街は燃えたのだ魔物を殺す勇者よ勇者

0466.じいちゃんと同じ名前の友達がもう殺すのは嫌だって言う

0467.夕暮れの向日葵畑で遊ぶときぼくらを覆う飛行機の影

0468.お盆には海へ行ってはいけないと叱った祖父と同じ名の友

0469.芯までも凍えるような夜だからただめちゃくちゃに手酷く抱けよ

0470.悔しくて苦しくてへらへら笑う僕は可愛い女の子じゃない

0471.クズだなと褒めて保てるプライドでサークラ女に憧れてみる

0472.「骨ばって声がどんどん低くなる前に死ぬのと云ったね、君は」

0473.何故男らしく生きねばならぬのと泣いたお前と星を見に行く

0474.幻想の男らしさをぶちやぶれ!スイーツ!ロリポップ!ハイヒールで1・2・3!

0475.愛しいと言うなら茨をかきわけて 憐れむだけなら誰でもできる

0476.僕は歌う 君に届かずとも歌う 歌い続けることで勝つのだ

0477.愛しあうために不要なものすべて取り払ったら脈打つ心

0478.こちら素体No.284。No.220、あいしてる。

0479.アルバムに一文字違いの姉がいて死んだ少女の時間を生きる

0480.ただしさのために生きるということは孤独なのだと年老いた王

0481.偽りを憎めば我が身に堪えがたき背理 誇りは貨幣にならぬ

0482.窓際で眠るお前のほっぺたに青年期いまひらりと桜

0483.性別を機械に与える業ゆえにぼくらのアダムは無性具有者

0484.遠すぎるものを救いと呼ぶのだよぶつかり合えばいとしいけれど

0485.くびすぢに恍惚はしる夜ぞ深くくれなゐの薔薇またたいてゐる

0486.きみは僕わたしはあなただったのだ羊歯、羊歯だらけの海辺の記憶

0487.プラトンも知らぬ十三歳のころ君と出会って世界は満ちる

0488.少年よ眠れ金木犀の下いつかお前の百年王国

0489.冷たくはないけど柔らかくもない僅かに欠けた樹脂の指先

0490.色褪せた床の挿花に口を寄せいまや我のみ知るその時分

0491.空を踏むその爪先にあ、つばさ 聖なる国へ君なら行ける

0492.これ以上素晴らしいものなんてない瞬間、塗り替えられてく青春

0493.書を写すその指先を見るたびに生きてて良かったと思うのだ

0494.慈善ならもう愛なんて囁くな救われたいのはあんただろうに

0495.わけもなく殺したいって思うよにみんなとハグをしたい春です

0496.初恋はきれいなひとと落ちるものだと思ってた いちごを潰す

0497.ゆふぐれに鞦韆揺らす耳元へ改悛なさいと命じる僕は

0498.首絞めて頸動脈を裂かれても十五年後に会いに行くから

0499.対岸で手を振るきみに男雛舟海ならふたり行き着けるだろう

0500.敗者ではいられないので外来種銃にこめたら花咲かすのだ

BL短歌(〜450)

0401.道徳と宗教が得意 あの夏の少年にはもう戻れないまま

0402.先輩 信じてもいないなら十字架を外してください

0403.白鳥が鐘楼をつく リボンタイほどいて風にまかせて死地へ

0404.この寮の幽霊として永遠に君を恋いたし まひるのひかり

0405.さよならを言うにも制服なんですね葬列に似た礼拝堂です

0406.北へ飛ぶ白鳥の群れ 性のない愛を正義と呼べはしないの

0407.おんなのこだったら君の優しさに気づかないまま嫌えただろう

0408.北の果てからトランクにいっぱいの花を摘むため世話になります

0409.ふたたびの生を得るなら見失うことはないねとマクドナルドで

0410.つま先でさぐればさぐるほど底は深まる 声もいらない場所へ

0411.ちょっとだけ予定を早めただけだった副葬品は互いに決めた

0412.ぼくならば積み木の城を裏切らぬ家臣になれる証拠をあげる

0413.「月曜に少年ジャンプを買ってきてくれる奴って重要だよな」

0414.心から欲したものはひとつだけ命にまさるくちづけを、いま

0415.返り血の及ばぬ場所を守ってるただそれだけの温もりを知る

0416.悪い子だそんなに心を閉ざすから魔法で爪が黒くなるのだ

0417.十年間お前はウィスキー樽の中眠ってたのだ琥珀の天使

0418.ありふれたジュテームじゃなくもっともっと、お前が欲しいのどう言えばいい?

0419.かみさまじゃなくてもここで朽ちていく未来のための覚悟はしてる

0420.梅雨ごもり汗ばむ肌と棒アイス 女のようにはなけなかった日

0421.「薔薇は薔薇、百合は百合、紐付けされたことばの奥の意味を答えよ」

0422.食べるなら手ずから絞めて血を抜いて一晩煮込んで骨まで愛して!

0423.もう君は傷つかなくていい夏の盛りに水をかけてあげるね

0424.敗北は目に見えている開戦を告げてグラスに光が揺れる

0425.故郷を焼いた男の飛行機に乗ればなにより美しい青

0426.いっぽんの氷柱が尾根を突きやぶり恋心とは狂気そのもの

0427.先の世でなくしたものを埋め合わすように抱き合うプラネタリウム

0428.みな人はロトの妻なりほろぶとも刹那あなたを焼き付けていたい

0429.板チョコをきれいに割れた試しなく破片で君の舌をくすぐる

0430.秀才としてたくさんの努力家を蹴落とした君お元気ですか?

0431.阿部定とおんなじ気持ちで僕はいま君の右手をくわえています

0432.パッヘルベルのカノンだお前といることはピカデリーでも第九でもなく

0433.鼻歌がメジャーコードを奏でない春の長夜のぬかるみのこと

0434.感情はことばではなく色だった音楽だったぼくらの国で

0435.ひとりきりぼくは荒野をさすらっていつか果実を分け合うだろう

0436.呪わない救いもしない神にただ祈ることだけ僕はやめない

0437.心など手に入らない期待しない島のゾンビは忠実らしい

0438.中庭の棕櫚の根元にネクタイを埋めたら記憶は薄れぬと聞く

0439.息白む三月一日制服のあなたは死んでしまう(失恋、)

0440.すれちがうばかりの俺たちだったけど後期は同じ学部なのだな

0441.愛されない理由を知りたかったころ男と寝るのは怖くなかった

0442.歯車が人間になる町工場帰りの汽車の窓には林檎

0443.我が夢に夜毎美童の通いきぬ百年の後まみえませうぞ

0444.もうなにもないカーテンもない部屋のひなた それでも好きでいたいよ

0445.ビルの谷間に潮騒を聞いていた酒の仕込みのリズムと知らずに

0446.カーテンを透かし夜明けの光さし傷跡だけが鮮明になる

0447.もろびとを救う男が我に告ぐ「生まれなかった方がよかった」

0448.けふ豚の屠殺を見ました蝿曰わく性の目覚めは常に夏です

0449.ソプラノに青を聞き取る少年は恋のいろはもソルフェージュせよ

0450.讃美する主はもはや無く寝台でふと口ずさむキリエエレイソン

BL短歌(〜400)

0351.杯にホットチョコレートを注ぎ「これが私の血」と言えよ、ほら

0352.戒律に背けば天はいと高くいっそ列聖せらるるほどに

0353.神様に選ばれないと嘆くその挫折が君を美しくする

0354.祭壇の供儀の血肉を与えられ天秤かける生と恍惚

0355.寵愛を受ける苦痛を知りながら高みまで行く翼を求む

0356.誰からも省みられぬこの身ならどうして愛を備え付けたの

0357.僕だけがカインの裔であることを知らせ優しく弟は笑む

0358.選ばれる意味を知らない君だから裂かれるままにわらうのだろう

0359.よく回る頭や口を持ちながら神の愛を欲するの、きみ

0360.「千代田区のコーヒー屋さんでれーちゃんが従兄に告白するってほんと?」

0361.いたいけな旧約聖書にくちづけをかみひこうきよはたてまで飛べ

0362.やはらかな部位ひとつだけかさねをりチヨコレイトと多元宇宙論

0363.日当たれば融けてしまう 寒夜には凍ってしまう ぼくたちの恋

0364.××は勿体無いからとりあえず君のかたちで我慢しとくよ

0365.群青の限りなく冴ゆこのひとひリネンのシャツを買いにゆこうよ

0366.ミッションを華麗にクリアする君が魚いっぴきさばけもしない

0367.軽やかに好きになったり嫌ったり水平線の入日を見たり

0368.糸を吐き吐き吐き強く巣を織るのたとえこのまま出会えなくても

0369.八月の静かの海に舟を出し僕はあなたを愛しています

0370.大学もまた一緒だな おめでとう、ケーキを奢ってやるから行こう

0371.いっしゅんでほどけてしまう恋だからリボン結びのこれは爆弾

0372.良し悪しはまあ置いといて同僚に配るチョコ経費で落ちんかな

0373.かなしみと口にするたびかなしみのしんしん染み入る2LDK

0374.可愛いと褒めてくれたの嬉しくて君を泣かせてみたいと知った

0375.なんぜんと生まれ変わって道端の板チョコレートにつまづくさだめ

0376.“中がく交がちがくてもいっぱいあそんでね”お前の手紙と野うさぎの糞。

0377.翅もいだ鱗粉で書く有罪の僕らの聖書『悪童日記

0378.まひるまの海底トンネルくぐり抜け真珠を渡すためにきたのだよ

0379.ねえ、俺の話きいてた?こういうのまさしく豚に真珠じゃないの?

0380.浮くことは悪くないよと言えるのは普通になれない人の優しさ

0381.多数派でもはやいられぬ時にこそ自分らしくと唱えてみなよ

0382.おまへからおまへを剥奪したあとでその手のひらに口づけをする

0383.別離のち返しそびれた書を開き時分の花をたしかめてみむ

0384.白む息吐けば千の夜一つ夜の魔術師にでもなれるってこと

0385.かぎりなく慈悲深いまなざしの青 おまえは僕に不具と名付けた

0386.少しだけ僕は未来を知っていたたとえば一緒に死ぬひとの貌

0387.綺麗事果たせないんなら嘘っぱちだからあんたは馬鹿だってんだ

0388.美しい男を選び手に入れたあたしの名前はサロメと云うの

0389.懇願のままにお前を横たえるサラベルナールを敷いた寝台

0390.「本命が終わるまで世話になりますね。あ、これ地元のチョコケーキです」

0391.飛び込んだ閉店間際のスーパーで二つセットのネクタイを買う

0392.三日月の鋭さばかりを恋う君だ(チョコレートでは人は刺せない)

0393.恋人の日であるゆえに今日ばかり親友をひとりずつ失う

0394.寒桜十月桜より君の開花を待とうアダージョアダージョ

0395.死ねよもう、殴って蹴って歯を折って砂擦り込んで欲情してる

0396.誰からも願われなかった僕がいま君に生きててほしいと願う

0397.しんしんとただしんしんとしんしんと踏みしだかれぬ雪のましろ

0398.お前には俺の人生台無しにした責任を取らせてやるよ

0399.すがるよに何度も呼ぶな そんなものお前を救えぬ人間の名だ

0400.この村もダム底になる おぼえてる?蝉取り歌った、遠くへ行きたい

BL短歌(〜350)

0301.左目を失明させたおれのことお前は憎むべきだったのだ

0302.ふらふらと境界線上ぼく・わたくし・おれ・誰かにはなれない、なれない

0303.背中には黒子が四つあるんだねもう神様の国へは行けない

0304.残虐を得るときヨブの名を呼べり父よエリエリレマサバクタニ

0305.ナイフ持ちつ路上のひとを狙いおり刺せば無邪気の証左であるか

0306.好きだ、など覚悟を決めた目で言うな ほんとうはただ死にたいくせに

0307.鋏には殺意を込めて絹を裁ちお前をいちばん綺麗に飾る

0308.夢を見る少女を胸にひそませてお前を獲得するために生く

0309.不具ならぬ身を恥じよとぞ月光の下でガリラヤ静かにひらく

0310.聖性は汚されるべし純白のベッドにただよう消毒液と血

0311.核戦争後のアメリカに生まれ落ちエイズで死ねるは幸運である

0312.薄日さす陵なだらか夢のあとに君の証しを抱いて生きる

0313.十五歳 日の目を当てることもなく森に沈めた恋はみずいろ

0314.「好き」は「好き」、ただそれだけのトートロジー。likeとloveの言葉遊びだ。

0315.口笛も風も寝息も青空も桜並木もいつか泡沫

0316.わざとらしい訛りを指摘されるたびすがりつく男の顔がよぎる

0317.すがりつく弟を捨て流れ着く山谷の夜にも温もりはある

0318.カノジョにはできないことをするための君をカレシと呼べるかどうか

0319.恋の終わり愛の終わりにまだそこに残った情をつまんで織って

0320.くたびれたお前を肩で支えつつセンター国語は文脈を問うな

0321.天よりのひかりを浴びてサンサーラこの一切をわかちあうべし

0322.淋しい目。「人間なんて」と繰り返し、繰り返し、信じてきたのだね。

0323.恋・ファッション・口調・生き方選び取ればオトコではなく女ではなく

0324.砂ツミのまんなかで靴をぎはなつ走るのやめれば風になるから

0325.きいたことない神さまの夢をみるそれを婚礼前夜というの

0326.天使にはなれなくたって脱け殻はどんな羽より軽いだろうか

0327.あのひとはおとこのひとだってわかるペプラムスカートのシルエットに、おちた

0328.言葉では殴ったあとは見られないなんて知らないままにえぐった

0329.人生を損なうものがここにあるからちゃんと目を逸らしていてね

0330.得るものがあるというのか普通からはるか遠くに隔てられつつ

0331.朝食のメニュウも忘れてしまうこと前世の罪だと君は言ったね

0332.回復を待って乾いた傷跡は空洞だから響くのでした

0333.諦めた目をした理由がそんなにも気になる? ただの思春期ですよ

0334.狎れきったジャブから不意にストレート「助けてくれるんですか、センセー」

0335.がんぜない好きには戻れぬグロテスク隠しとおすからそばにいさせて

0336.海底へ金平糖を振りまいて遊ぶ 祝福を知らぬ子ら

0337.かぎりなくうつくしいこの世界 この不幸を否みつづける呪文

0338.先に行けるわけでないのに僕たちはしろい翼を欲していたね

0339.傷口に手を差し入れて剣を生む種族であるぞ さあ決闘を

0340.貧血になったらチョコをあげるから気怠い君の甘い鉄錆

0341.甘いもの苦手なお前のために買うヴァンホーテンのカカオパウダー

0342.さらさらと手鍋に融けるチョコレート 雪玉で頬を切る予感して

0343.選民のお前がつまむ鉱石はチョコレートだと俺は知ってる

0344.通学路 投げつけられた爆弾の中から知らない世界の切符

0345.穴のないブラックボックスひもといて答えを導き出してごらんよ

0346.このたびは業務用チョコ品評会ようこそお越しくださいました

0347.埋み火を起こしココアを温めて宮廷人の媚薬を思う

0348.渡すのも渡せないのもいやだから明日学校爆発しないかなー_(:3 」∠)_

0349.「何でチョコくれなかった?」ってだって君、犬にチョコは毒じゃないか

0350.致死性の菓子をつまめぬお前にはかわりに革の首輪を嵌める

BL短歌(〜300)

0251.鮮烈な絶望のまま死なないか 磨耗するより似付かわしかろう

0252.「この水を飲んだら死ぬ」とうそぶいた公園の蛇口きらめく夕暮れ

0253.面白いことないかなと言いながら雪冷えの手を暖めている

0254.床に散るネクタイブレザー拾い上げばかだな君は皺になるのに

0255.男より人間であれ痩せすぎた指であなたはパンを与える

0256.俺たちは一緒に死のうの一言を口付けながら奪いあってる

0257.あなたって優しいひとだ一枚の硬貨をぼくにくれて犯すの

0258.強姦ののちの夜空を振り返りあの子はパンを買えるだろうか (0257の対)

0259.戦争が終われば国に帰りゆく良い人たちは罪を置き去り

0260.男だから結ばれなくても女なら出会えなかった君が好きだよ

0261.ひととしてひとを愛せるそのことに純も不純もないと誇ろう

0262.肉欲を満たすだけなら誰とでもできるし、お前らだってそうだろ?

0263.奥津城に人知れず湧く山清水想うこころに許可はいらない

0264.愛と死が親しむところ ほとばしる命の熱で身をぬくめおり

0265.傷口を暴きあうよな夜があり『こんな形でしか愛せない』

0266.静寂が開戦を告ぐ午後一時 口を用いず視線で殺せ

0267.さあ俺をぶって、そうだ、もっとつよく罰に溺れれば何も見えなくなる

0268.バード・キス交わし離れるくちびるを裏切りと呼ぶきみに日蝕

0269.勝つことを正義だと云う少年を背徳の蜜で絡めれば雨

0270.情欲はしがらみのつど透きとおりついには墓標に降り注ぐまで

0271.ギリシャとか戦国時代とかいたずらに弄んでも平成の恋

0272.終電の後の夜汽車に飛び乗ってこのまま遠くへ行ってみないか

0273.性欲は征服欲だ 四月この畳も胴着もかたき季節に

0274.友ならば終わりは来ない 息がずっとできないのだって制服のせい

0275.うつくしきおまへの瞳をなぶつたら甘いだらうか理科室の午後

0276.桜前線追いかけて北上の車中、仕掛けるキスで敗北

0277.調子外れの若者のすべてを聞きたいよまたばかさわぎして

0278.ばかだなとふたり笑えばロケットの搭乗口はしずかに閉じる

0279.急カーブわざと曲がってみるけれど触れてしまえば後ろめたいよ

0280.君の話を聞くために生まれきたような気がして花散る午餐

0281.少年は菫の花の砂糖漬け リボンほどけば清らかにあを

0282.齢八 母の授けし君主論 やがては父をも治めるべきか

0283.(死なせたくないのに)君の潔癖が消えゆくならば死ねばいいのに

0284.君だけがぼくのすべてと言いたくて、言えなくて、いま、大観覧車

0285.輪郭がオレンジ色に透けていて何年後まで永遠だろう

0286.雪化粧ひかりまぶした友人を幾年も経て鮮やかに恋う

0287.詩のようにキスひとつだけくれないか赦されないなら正気でいれる 『カラマーゾフの兄弟

0288.血で染めた宿縁(すくえん)首へ巻きつけてさらば来世も刃交えむ

0289.偽善でも君が乞うなら初春にともに眺めしイルミナシオン

0290.自転車でダムのほとりを走りぬけぼくと君とが風に解けゆく

0291.楽園から石もて追われ繋ぐ手にとうとうわらう ひどくたのしい

0292.愛のため生きてるなんてことはない(痛みの中できみを呼んでる!)

0293.肩に歯を、背には爪を まぼろしの恋をかたどる共犯者として

0294.誰よりも劣ってながら傲慢を振りかざすのがきみの美点だ

0295.殺される予感を信じていたかった十八歳 まだ途上の季節

0296.また生に引き留められる絶望と安堵にどんな名前を付けよう

0297.いくらでも穢したいのに交わらぬグラフみたいで悔しい泣きたい

0298.祈るごと重ねるマスカラ 肉体を檻とは言わぬ 魔とは呼ばせぬ

0299.完璧な口からはなつ無神論 滑り込むのは人心のみか 『悪霊』

0300.幸せになれないことよりあの人に会えないことが恐ろしかった

BL短歌(〜250)

0201.友よりも強き男であるためにかかげた拳がお前をえぐる

0202.垣根の上を歩みたがる君といて紅葉小春日和を燃やせ

0203.この身体で煽れる炎は妬心だけ焼き尽くすなら骨も遺すな

0204.押し入れの柱に指を這わせれば旱の夏の義兄がほほえむ

0205.あなたたちが眉をひそめる残酷を残らずぼくらに開け放ちなさい

0206.国ひとつ滅ぼしてまた春が来る

0207.死ねよじゃなく殺すって思った十四の僕をお前は知らないだろう

0208.俺のこと何にも知らないくせして知った口利くのやめろバカヤロー!

0209.ライターでこの肌炙り火傷の痕に首を傾げる無邪気なひとよ

0210.彼を愛せば破滅と知って葉桜はこれより二度とみにくく咲かぬ

0211.ただ一度愛するひとに愛しいと言われてみたい ただそれだけだ

0212.「拝啓 君に会えないことが身に沁みてつらくいまさら愕然とする……

0213.ふるさとを箱庭と悟る十六の朝に見上げた雲の果たてよ

0214.導いてゆかねばならぬ定めでも愛とは惚れたものが負けだよ

0215.十代の激情しづかにすりつぶし薬となせば死はまだ遠し

0216.遠ざかりゆく漂泊の日々ひとつ 君はまばゆさそのものだった

0217.生きるしかもはやできない途上にてまどろめば青年の翳りうつくし

0218.かさついた唇の皮が引っかかる惨めな夜の蜜を舐めおる

0219.無二の日も過ぎていくならそれをこそ慈しむぼくしがみつく君

0220.熱帯の魚まなこをこごらせてなお泳ぎゐる地獄、爛漫

0221.当てはまる単語はないが要するにS極N極なのだぼくらは

0222.憎しみでなく憐れみで君の死を願ったらもう去り時だった

0223.ラブプラス炬燵囲んでつっついてあいしてるから報われないでいい

0224.好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだそんでどうしようもないことを知ってる

0225.恋人ができたら紹介してほしい 女だったら祝福するから

0226.叶わない恋なのだろう(叶わない恋をしている自分が好きだ)

0227.もし明日世界のすべてを呪っても書斎のすみで交わす永遠

0228.文法をたずねれば冬 水紋の硝子 南天 指先の熱

0229.弓なりになるとたわむとしなるとの語意の違いを教えてやるさ

0230.赦さぬとささやきながら情欲の炎を点す性と青春

0231.憎しみを鎮められないなら鬼子 九相の果てをも惜しまず戀うる

0232.君のその激しい憎しみごとすべて抱きしめ生きていきたいんだよ

0233.きみ男の子 不具の子 鬼子 無罪の子 激情の華咲かせば火の粉

0234.たったひとつの染色体が住む場所を分かつならぼくらぼくとはきみだ

0235.ゆるせないことはゆるさなくてもいい割れた塑像にラッカーを塗る

0236.うすき腹に額をあててヨセフよりガブリエルのよに告白をする

0237.溺れゆく間際にきみは白百合の光を背負いぼくにほほえむ

0238.踏み越せぬカーテンのその隙間からいつか愛した人に会いたい

0239.銃創をよもぎの匂いで飾りつけ僕らは神様の子供だよ

0240.襟元を引き寄せ殴り殴られて足を取られて重なる浅瀬

0241.かくれんぼ杉立ち並ぶ境内で千年過ぎてもまだ日は暮れぬ

0242.クソッタレみたいな嘘や建て前は知りたくもない優しさでした

0243.教室を抜けて飛びこむ図書室の海で少年虹色になる

0244.弱くても生きられる世であったなら君は泣かなくたって良かった

0245.害せない弱さをちからと言い換えた赦しの秘蹟に犬を放てり

0246.何もかも覆い隠せし雪の日に聖なるかなと声を揃える

0247.美しくあるべきものゆえ美しく愛するに足るきみのプライド

0248.終末は救いと笑みを掘りさげる二人も遠く光の中へ

0249.若さとは未来を信じられることで共に生きれる夢を見ていた

0250.雪原が薔薇色に染むこの冬が終わるころにはきっと僕らは、