BL短歌(〜300)

0251.鮮烈な絶望のまま死なないか 磨耗するより似付かわしかろう

0252.「この水を飲んだら死ぬ」とうそぶいた公園の蛇口きらめく夕暮れ

0253.面白いことないかなと言いながら雪冷えの手を暖めている

0254.床に散るネクタイブレザー拾い上げばかだな君は皺になるのに

0255.男より人間であれ痩せすぎた指であなたはパンを与える

0256.俺たちは一緒に死のうの一言を口付けながら奪いあってる

0257.あなたって優しいひとだ一枚の硬貨をぼくにくれて犯すの

0258.強姦ののちの夜空を振り返りあの子はパンを買えるだろうか (0257の対)

0259.戦争が終われば国に帰りゆく良い人たちは罪を置き去り

0260.男だから結ばれなくても女なら出会えなかった君が好きだよ

0261.ひととしてひとを愛せるそのことに純も不純もないと誇ろう

0262.肉欲を満たすだけなら誰とでもできるし、お前らだってそうだろ?

0263.奥津城に人知れず湧く山清水想うこころに許可はいらない

0264.愛と死が親しむところ ほとばしる命の熱で身をぬくめおり

0265.傷口を暴きあうよな夜があり『こんな形でしか愛せない』

0266.静寂が開戦を告ぐ午後一時 口を用いず視線で殺せ

0267.さあ俺をぶって、そうだ、もっとつよく罰に溺れれば何も見えなくなる

0268.バード・キス交わし離れるくちびるを裏切りと呼ぶきみに日蝕

0269.勝つことを正義だと云う少年を背徳の蜜で絡めれば雨

0270.情欲はしがらみのつど透きとおりついには墓標に降り注ぐまで

0271.ギリシャとか戦国時代とかいたずらに弄んでも平成の恋

0272.終電の後の夜汽車に飛び乗ってこのまま遠くへ行ってみないか

0273.性欲は征服欲だ 四月この畳も胴着もかたき季節に

0274.友ならば終わりは来ない 息がずっとできないのだって制服のせい

0275.うつくしきおまへの瞳をなぶつたら甘いだらうか理科室の午後

0276.桜前線追いかけて北上の車中、仕掛けるキスで敗北

0277.調子外れの若者のすべてを聞きたいよまたばかさわぎして

0278.ばかだなとふたり笑えばロケットの搭乗口はしずかに閉じる

0279.急カーブわざと曲がってみるけれど触れてしまえば後ろめたいよ

0280.君の話を聞くために生まれきたような気がして花散る午餐

0281.少年は菫の花の砂糖漬け リボンほどけば清らかにあを

0282.齢八 母の授けし君主論 やがては父をも治めるべきか

0283.(死なせたくないのに)君の潔癖が消えゆくならば死ねばいいのに

0284.君だけがぼくのすべてと言いたくて、言えなくて、いま、大観覧車

0285.輪郭がオレンジ色に透けていて何年後まで永遠だろう

0286.雪化粧ひかりまぶした友人を幾年も経て鮮やかに恋う

0287.詩のようにキスひとつだけくれないか赦されないなら正気でいれる 『カラマーゾフの兄弟

0288.血で染めた宿縁(すくえん)首へ巻きつけてさらば来世も刃交えむ

0289.偽善でも君が乞うなら初春にともに眺めしイルミナシオン

0290.自転車でダムのほとりを走りぬけぼくと君とが風に解けゆく

0291.楽園から石もて追われ繋ぐ手にとうとうわらう ひどくたのしい

0292.愛のため生きてるなんてことはない(痛みの中できみを呼んでる!)

0293.肩に歯を、背には爪を まぼろしの恋をかたどる共犯者として

0294.誰よりも劣ってながら傲慢を振りかざすのがきみの美点だ

0295.殺される予感を信じていたかった十八歳 まだ途上の季節

0296.また生に引き留められる絶望と安堵にどんな名前を付けよう

0297.いくらでも穢したいのに交わらぬグラフみたいで悔しい泣きたい

0298.祈るごと重ねるマスカラ 肉体を檻とは言わぬ 魔とは呼ばせぬ

0299.完璧な口からはなつ無神論 滑り込むのは人心のみか 『悪霊』

0300.幸せになれないことよりあの人に会えないことが恐ろしかった