BL短歌(〜400)

0351.杯にホットチョコレートを注ぎ「これが私の血」と言えよ、ほら

0352.戒律に背けば天はいと高くいっそ列聖せらるるほどに

0353.神様に選ばれないと嘆くその挫折が君を美しくする

0354.祭壇の供儀の血肉を与えられ天秤かける生と恍惚

0355.寵愛を受ける苦痛を知りながら高みまで行く翼を求む

0356.誰からも省みられぬこの身ならどうして愛を備え付けたの

0357.僕だけがカインの裔であることを知らせ優しく弟は笑む

0358.選ばれる意味を知らない君だから裂かれるままにわらうのだろう

0359.よく回る頭や口を持ちながら神の愛を欲するの、きみ

0360.「千代田区のコーヒー屋さんでれーちゃんが従兄に告白するってほんと?」

0361.いたいけな旧約聖書にくちづけをかみひこうきよはたてまで飛べ

0362.やはらかな部位ひとつだけかさねをりチヨコレイトと多元宇宙論

0363.日当たれば融けてしまう 寒夜には凍ってしまう ぼくたちの恋

0364.××は勿体無いからとりあえず君のかたちで我慢しとくよ

0365.群青の限りなく冴ゆこのひとひリネンのシャツを買いにゆこうよ

0366.ミッションを華麗にクリアする君が魚いっぴきさばけもしない

0367.軽やかに好きになったり嫌ったり水平線の入日を見たり

0368.糸を吐き吐き吐き強く巣を織るのたとえこのまま出会えなくても

0369.八月の静かの海に舟を出し僕はあなたを愛しています

0370.大学もまた一緒だな おめでとう、ケーキを奢ってやるから行こう

0371.いっしゅんでほどけてしまう恋だからリボン結びのこれは爆弾

0372.良し悪しはまあ置いといて同僚に配るチョコ経費で落ちんかな

0373.かなしみと口にするたびかなしみのしんしん染み入る2LDK

0374.可愛いと褒めてくれたの嬉しくて君を泣かせてみたいと知った

0375.なんぜんと生まれ変わって道端の板チョコレートにつまづくさだめ

0376.“中がく交がちがくてもいっぱいあそんでね”お前の手紙と野うさぎの糞。

0377.翅もいだ鱗粉で書く有罪の僕らの聖書『悪童日記

0378.まひるまの海底トンネルくぐり抜け真珠を渡すためにきたのだよ

0379.ねえ、俺の話きいてた?こういうのまさしく豚に真珠じゃないの?

0380.浮くことは悪くないよと言えるのは普通になれない人の優しさ

0381.多数派でもはやいられぬ時にこそ自分らしくと唱えてみなよ

0382.おまへからおまへを剥奪したあとでその手のひらに口づけをする

0383.別離のち返しそびれた書を開き時分の花をたしかめてみむ

0384.白む息吐けば千の夜一つ夜の魔術師にでもなれるってこと

0385.かぎりなく慈悲深いまなざしの青 おまえは僕に不具と名付けた

0386.少しだけ僕は未来を知っていたたとえば一緒に死ぬひとの貌

0387.綺麗事果たせないんなら嘘っぱちだからあんたは馬鹿だってんだ

0388.美しい男を選び手に入れたあたしの名前はサロメと云うの

0389.懇願のままにお前を横たえるサラベルナールを敷いた寝台

0390.「本命が終わるまで世話になりますね。あ、これ地元のチョコケーキです」

0391.飛び込んだ閉店間際のスーパーで二つセットのネクタイを買う

0392.三日月の鋭さばかりを恋う君だ(チョコレートでは人は刺せない)

0393.恋人の日であるゆえに今日ばかり親友をひとりずつ失う

0394.寒桜十月桜より君の開花を待とうアダージョアダージョ

0395.死ねよもう、殴って蹴って歯を折って砂擦り込んで欲情してる

0396.誰からも願われなかった僕がいま君に生きててほしいと願う

0397.しんしんとただしんしんとしんしんと踏みしだかれぬ雪のましろ

0398.お前には俺の人生台無しにした責任を取らせてやるよ

0399.すがるよに何度も呼ぶな そんなものお前を救えぬ人間の名だ

0400.この村もダム底になる おぼえてる?蝉取り歌った、遠くへ行きたい