1月17日BL歌会レポートまとめ

1月17日の夜にスカイプのグループチャットにてBL歌会を開催しました。
BL短歌・BL俳句のイベントは東京や大阪の方では何度か行われているのですが、
地方在住の身には参加が難しくいつも残念に思っておりましたので、
こうしてネットのツールを利用しての歌会を執り行うことができて良かったです。

以下、詠草と、評のまとめを掲載いたします。
雰囲気を少しでも再現できましたなら幸いです。

① LOVEの意味?「親愛だって」煙に巻く 素知らぬ顔で繋ぐ左手(なつこ)
・LOVEが英字なのがぱっと目を惹く。
・このひと煙草吸ってますよね。ファミレスとかで皆で食事してて、机の下で握ってるイメージ。
・中学生が家庭教師に向かってLOVEの意味を問いかけているように読めてどきどきする。
・「親愛だって?」とはぐらかす感じが良い。自分の本心からの言葉じゃない。
・「ずるい男ですね」「ずるい男って結局ガキなんですよ。責任転嫁しちゃう」
・左手で繋ぐのにぐっときます。つまり、相手の右手(利き手)を奪ってるということでしょう?
・どっちも惹かれてるんだけど、どういう感情なのかわからないのでは。
・感情がエスカレートしないようにストップをかけてるのでは?

② てのひらを合わせてうつす生命線ここより先は白き世界で(土筆みを)
・ふたりで凍った湖の上を歩いている。
・片方が死んでいて、生き残った方が生命を分け与えようとしているのだと思います。でも生き返らない。
・心中かな。上の句の柔らかさに比べて下の句が文語的なのが、違う世界への旅立ちっぽい。
・未遂だと思います。ふたりとも死にきれなかったのがみじめで、また生命線が長くなってきたね、と手を合わせてる。
・キスをしているシーンかな? 自分は死の予感はないと思いました。まぶしいいのち、のイメージ。ふたりでシンクロしてる。
・『ダレン・シャン』の吸血鬼化の儀式が手に傷をつけて血を混ぜるものだったので、それを連想した。吸血鬼と雪原で『ぼくのエリ』も。
・『廻るピングドラム』っぽいなと思った。「うつす」は鏡写しと移動のふたつに読める。
 男の子がふたりいて、片方が長生きで、相手に別の世界への地図ごと寿命を渡す。(自分を)ぜんぶあげちゃう。
・ピンドラだと「生命線」じゃなくて「運命線」でもいいかも。

③ 「きみは詩だ!」さういふ風に思つてた アイオーンは如何、薔薇でも食べてゐろ(かかり真魚
・詩=儚いもののイメージ。アイオーンは時間の象徴で、お前は儚いものだと思っていたのに美しく生き延びてしまうのか、と思ってる。
・アイオーンには何か意味が込められているはずなんだけど、それが読み切れなくて残念。薔薇と関連性はある?
・薔薇=永遠で『ポーの一族』を連想しました。24年組の漫画っぽい。「アイオーンは如何〜」が相手の台詞。
 短命の人間を、あのとき道連れにして永遠の生命を与えておけばよかった、と回想しているところ。
・「君は詩だ!」の言い切りがドストエフスキーっぽい。片思いの相手がイメージと違って失望してるのではないでしょうか。
・たとえば美とかのはっきりとした価値観ではなく、詩というわかりにくいもので形容しているのに萌えます。
 思ってた、と過去形なので相手は死んでいるんじゃないかな。夭逝への憧れはありますよね。
プラトンの『饗宴』に出てくるアンドロギュノスの挿話のイメージでした。
 アイオーンは「君」のことで、既に完全な球体として生まれてきたような、ひどく自己愛の強い人間。
 僕は君をミューズとして崇めてたのだけど疲れて、「君は君ひとりで完結してるんですね、薔薇でも食べてろ」と吐き捨てる。

④ 金粉の花野に転がりこんでゆくあいつらはクラスのいちばんとにばん(へそ)4点
・言葉の繋がりがなめらかでいい。
・破調ですね……! この視点のひとはたぶん三番なんだけど、一位と二位には追いつけなくて悔しがってる。
 「あいつらはクラスの」と字余りしてる中に色々とコンプレックスが詰まっている感じがして萌えます。
・金粉の花野という綺麗な場所にいけないのが悲しい。いちばんとにばんの間には割り込む隙がない。でも、見てる方が楽しい。
・見ることしかできないモブの悲しみ萌えですね。いちばんとにばんの何のてらいもない関係に嫉妬しているんです。
 自分もこういう人生があり得たかも、と思うから嫉妬する。手が届かない相手には嫉妬心はわかない。
萩尾望都みたいなギムナジウムの画が思い浮かびました。窓のところで肘つきながらふたりを見ている。選ばれない自分に共感します。
・花粉はえろいです。スクールカーストがあって、いじめられている子が上位のふたりを復讐として綺麗な場所にぶちこんで、
 私がこういう風に仕向けました、とほくそ笑んでいます。金粉の花野は綺麗だけど、漠然としていてこわいイメージがありました。
・主体は三番じゃなくって真ん中あたりの子なのではないでしょうか。教室では関わりがないけど、ふたりの関係に憧れていた。
 ある日登校したらふたりが死んだことを知らされ、美しいものが永遠に自分を置いて行ってしまった、と失恋したのを懐古してる四十代。
・「(上に対して)どちらが好きだったのですか?」「ふたりの関係に恋をしていたのではないでしょうか」

⑤ 肉を食ふけものとして吾を画くことのきつと懺悔と云へないだらう(ネムカケス)
・われがわれを画くのか、君がわれを画くのかで意味が分かれるので、読み解くのが難しいです。
・(君がわれを画くとして)画かれる‐画くの関係性がエロい。われを捉えて画く、ってフェティッシュですね。
・そのひとを紙に写して所有するのがえろいですね。肉を食うけものがどちらなのか、わからない。
・私が冷静なものとして書かれてるのが怖い。神様を食べていて、神様はもう生きていないんだけど、われを見ている。
・悪いことをしたから仕方ないのかな、って諦めてる?
・(われがわれを画くとして)食う/画くはそれぞれ本能と理性で対比している。君を食べたけものとして自分を画くけど、
 それは絶対に懺悔にならない。冷静な自傷。画けば画くほど自分が傷ついていく。救いはないのか、と可哀想になる。
・セックスの迂遠な描写だと思いました。画く=身体の線を自分でつくりあげていく、で。
 男同士の恋とか性行為を罪として、ふたりで懺悔しているのだけど、どこかおままごとっぽくもあります。
 あと『闇の末裔』にこんなエピソードがあったのを連想しました。

⑥ 靴に沿う足音、スープを混ぜる肘、すこしずつなめらかに合わせた(田島千捺)
・なんかこう、同じ環境で育つから癖が同じになるという…つまり兄弟萌えですね? 
・双子っぽいですね。『悪童日記』を連想しました。繋がってるから不自然なので、離れてるものにしたがるのかも。
・自分は他人同士だと思いました。すこしずつ仲良くなっていく感じが不穏で不気味です。
・「スープを混ぜる肘」が日常的じゃなくって気になりますよね…
・一緒に暮らしてて相手の癖がうつってく幸せな歌かと思ってたのですが、よく読むとストーカーやこれ!(笑)
・気を引くために同じ行動をして共感させる、ミラーリングという合コンテクを前に見たのですが、それっぽいです。
・ストーカーなんですが同化願望が強いです。あわせた、が最強。不穏と親密の二つの感情がある。『ルームメイト』という映画思い出しました。
・実は定型におさまってるのに、句またがりなので短歌ではなく文章にしか見えない。
 そこが、一瞬異常に感じるのに、よく見ると普通の親密な関係なんだと感じさせてしまう効果がある。

⑦ 言霊を持たぬお前の胎にいて作戦前夜、肉塊になる(孤伏澤つたゐ)
・妊娠してるひとと胎にいるひとのふたりだけでコミュニケートできて、なんらかの作戦があったのだけど、
 胎にいるひとがかれを死なせないために前夜に自死しちゃう。で、作戦は失敗しちゃう。かなしくて萌えます。
・状況が見えないのだけど、胎にいる人が一方的に依存してるのが萌える。生命を持たないものになる、って強烈ですね。
・言葉(=思考)を持たない人形に孕まれているのかなぁ…。自分は作戦のために肉塊になるのだと思いました。
・言霊とか、肉塊とか、強い意志があってそうしようとしてるのだと感じました。
 どちらかが死ぬ、というよりは意志の主張できないものになるのかな。パイロットとか……?
・あー、戦艦とかでしょうか……?
ガンダムとか、戦闘妖精雪風とか。パイロットって命令をアウトプットするしかできないじゃないですか。
・今の聞いてて『共有結晶』二号のアユムさんの漫画思い出しました。設計者萌えです。

一首に二〜三十分ほどの時間をとって、だいたい以上のような評になりました。
脱線しながら萌えを語ったりとても楽しい時間でしたので、また日を見て開催したいと思います。
このたびはみなさまありがとうございました!!

「性別越境アンソロジー」進行状況1

「性別越境アンソロジー」企画・募集要項 - 巣ごもりの日々
募集要項は上のリンクから

・雑誌サイズはB5に決定しました。
・「芸能」は難しいということで「演じる」くらいにふわっとしたもので大丈夫です。
・漫画のページ数は8pから16pに増やします。
・1000文字のレビューはテーマの縛りなしに「性別越境」と判断したものをお寄せください。

メモ代わりのとぅぎゃったー
#性別越境アンソロジー - Togetter

「性別越境アンソロジー」企画・募集要項

・はじめに
性別を越える人々について書かれた、小説、エッセイ、論文、イラスト(イラストエッセイ)、漫画等の作品。また、既存の作品について書かれたレビューを募集しております。
テーマは「芸能」ですが、場合によっては特集として、芸能を含まないものも可になるするかもしれません(調整中です)。(3/18追記)「演じる」くらいにふわっとしたくくりで大丈夫です!また、レビューはあなたが「性別越境」だと思ったものであればどんな作品で書いていただいてもかまいません。

・発行予定日
2014年秋文学フリマ発行予定。

・どのレベルまでが「性別越境」?
たとえば男役・女役・ドラァグクィーン/キングなどの演じるうえでの異性装、手術によってのトランスセクシュアルオルランドのように目が覚めたら別の性別だった等々、元の性別を越えているものであればレベルは自由です。
あなたの考える「性別越境」の魅力をお寄せください。

・NGはあるの?
性的描写、暴力描写が仔細に書き込まれているものは年齢制限が発生するため、
性別越境の当事者は変態・異常者など、社会的に排除されるべきだと結論づける作品は主旨と合わないためにNGとさせていただきます。

・進行スケジュール
(3〜6月まで、ネタだし・話し合い)
 4月末 小説。エッセイ・論文・イラスト・漫画の参加者締切
5月 2014年春文学フリマにて、告知ペーパーを配布(予定)
   広報活動開始
 5月末 レビュー参加者締切 

9月上旬 締切
9〜10月 編集・印刷(最安値で頼みたいので入稿早めです!)
11月 発行

・原稿の目安
 小説・漫画 8p
(3/18追記)漫画 16p
 論文・エッセイ 4p
 イラストエッセイ 2p
 レビュー1000字
 ……以内を目安にお願いします。もし増えそうな場合はご連絡お願いします。
 ※小説・エッセイ・論文はテンプレート配付予定です。
 ※雑誌のサイズは現在検討中です。どんどんご希望をお寄せくださいませ。(3/18追記)B5サイズになりました。

・寄稿の御礼として、本誌三冊まで+薄謝を予定しております。

このほかに質問等ございましたら、ネムカケス または 実駒さん までお問い合わせくださいませ!

掌編1

私はかならず戻つて来るから犬よ 待つてゐなさい、穴でも掘つてゐなさい/松平修文

あれは、事故だった。あなたがいたずらに飛びついてきたのに、私は気付かないふりで身をそらした。いつものスキンシップのはずだった。私たちはまだ新たに越してきた家に慣れていなかった。あなたは棚の角に勢いよく頭をぶつけ、床に倒れ伏してしまった。肩をゆすっても、もうはたりとも動かなかった。あなたはひどく軽く、抱き上げるときゃいきゃいと軽やかに声を響かせたものだった。その声を思い出しながら、私はあなたを段ボールの中に横たえた。ふたを閉めるときにあなたの髪が私の人差し指に巻きついて、さらりとほどけていった。ようやく一軒家に住めるね。隣家との境は林なのだね。落ち着いたら一緒に散歩をしよう。……その林に、あなたを連れて行った。
あなたは真夜中に戻ってくる。あああ・えええ・でえええ。いいい・れええええ・でえええ。その叫び声を私は、布団に丸まりながら聞く。あなたにはたおれてからの記憶がないようだ。叫ぶ、玄関を叩く、ポーチに土くれを、腕のかけらを散らばせる。そんなふうに私を断罪しながら、日がのぼる前に林へと帰っていく。
私はあなたを埋めなければならない。あなたが私の所行をいいふらす前に、あなたが近所を徘徊する前に。深く、地中のもっと深く、よみがえることのできないところまで、穴を掘る。穴を掘る。あなたのからだをとりあげる。穴を掘る。あなたを埋める。地を均す。
夕暮れになるとあなたの気配がわたしを取り囲む。土の、冷たい、腐ったにおいのする抱擁はやさしい。あなたはいつものように私に頭をこすりつける。おかえりなさい。あなたは安堵しきっている。私がまた、あなたをころすともしらないで。穴を掘ることに慣れきったこの毛むくじゃらの手で、それともこの鋭い牙で。

寄稿について

・ウ-37、BL短歌誌「共有結晶」に連作短歌十首と掌編小説一本を載せていただいております。短歌は祝祭をテーマにしたもの、小説は「白鳥は哀しからずや空の青海のあをにも染まずただよふ」から想像を膨らましたものです。

・C-51、カラマーゾフの犬で発行される「ドストエフスキー百人一首」と「月刊カラマーゾフの犬」にツイートを載せていただいています。

どちらのサークルも非常に面白い試みをされているところなので、ぜひお手にとっていただけたらと思います。よろしくお願いいたします。

文学フリマに出店します

ぎりぎりになってしまって申し訳ありません。本日開催される文学フリマで、BL短歌自薦歌集を販売します。
以下のように連作として再編して、小説を書き下ろした一冊です。新書版/本文58p/200円。スペースはC-51でお待ちしております。

***

 カウンターボーイ
何故男らしく生きねばならぬのとわらった君の潮騒を聞く
泣くこともゆるされぬ性背負いつつ弱音を吐ける恋はいいよな

  聖家族
その胸に仄かに揺れているものを火と知っていて摘まんでしまう
押し倒されて屈辱に喘ぎなさいあなたのやり方で愛すから

  神様の子供たち
みせかけのものはいらない子供たち 信じさせてよ見るものすべて
半身よ 君よ 囁きあうことは偏光板のひかりの洪水

  サヴァイヴァーズ/チルドレン
支えあうようなふたりになれなくて共倒れする恍惚を待つ
遠ざかりゆく漂泊の日々ひとつ 君はまばゆさそのものだった

  見鬼小景
雨を待つ鎮守の森は静かなり鬼百合を摘む子はまだ七つ
けふ豚の屠殺みました蝿曰く性の目覚めは常に夏です

  八月は海
じいちゃんと同じ名前の友達はもう殺すのが嫌だって言う
揚げひばり桜の国の君なれば老いゆくことの幸いであれ

  夢のあとに
定理など聞かなくていい少年は書架から書架を移ろう虹だ
薄日さす陵なだらか夢のあとに君の名残りを抱いてねむる

  あとがきにかえて
マッチ擦るつかのま海に霧ふかし身捨つるほどの祖国はありや

どれを引こうか悩んだけれど、いちばん好きなこの歌について書きたい。この歌は友人と家出ごっこをした夜に結び付いている。十四歳になったばかりの秋、持てる分だけの金を持って列車に飛び乗った瞬間はひどくどきどきした。どこか遠くへ行きたかった。彼とならばどこまでも行けると信じていた。大人に従順であることには飽いて、非行集団に加わる向こう見ずさには疎かった。あらゆるルールを意に介さないような友人の態度に憧れた。彼の隣にいること、彼の愛する本を読むこと、それだけでどこか非日常の気配がした。僕は彼が好きだった。

BL短歌(〜600)

0551.過ぎ去りし少年時代をとりかこむ風、の名前も言へてしまへり

0552.明礬のかをるスカーフたたみをり翳りゆくかなEnfance finie

0553.生涯をささげる恋と定めしか十五のわれに咲くおきなぐさ

0554.君は首なしの椿を挿すように愛するひとにさわるのだろう

0555.ころしかた覚えていけばいくほどに研ぎ澄まされていく恋心

0556.手首ってつぶやけば血を見るようでカフスはずせばまっさらな肌

0557.リノリウム濡れたシューズで踏むときに死にいく声が響く中学

0558.また/きみは/十九歳の/街角で/もう/百度目の/絶唱をする

0559.イン・ザ・クローゼット 妖精と話すことだってもう秘密になるの

0560.倦みはてたあなたの中に押し入って夜毎わたしは生をいただく

0561.降る雪が真綿であると知る君を小瓶の中で抱きしめてやる

0562.もし、なんて 背中を抱いて慰める行為にさえも理由がいるの

0563.言う 言う 言う 五感はきみを言葉としぼくはどこにも紙片と歩く

0564.言葉 きみ 冷たい頬(いや) 痩せた指(いや) (言葉ではきみと呼べない)

0565.描写して形容すればするほどにきみは消えゆく(もう大丈夫)

0566.ぼくたちは高瀬舟には乗るまいよ血を羊水のごとくに眠る

0567.なおしてよ ああきみの身体あまねく傷跡ですね

0568.五年まえ神様の心臓を食べたね 地下室は燃えちまったね

0569.暗闇の冷たい切れ目から溢れる赤がいちばん美しい色

0570.薔薇だけで生きていくため晩餐の最後に聖なる肢体を供す

0571.じゃれあいも恥ずかしくなるくらいなら恋の意味など知るべきでない

0572.やがてかの屋敷は朽ちて野にあざみ 君が見つけるされこうべなり

0573.トンネルは祝祭ですか祝祭のあとには新たな光さします

0574.沈澱を記憶しているひとすくいきれいな水を君にあげるよ

0575.水底で呼気も硝子にかわるころ攪拌されるからだだったの

0576.満潮の晩に背中の鞭痕へ神をむかえるだけの兄さん

0577.青年の背中を剥げば少年を取り出せるのと信じて真夏

0578.少年が太宰治に恋をするいちどっきりの十六の夏

0579.紫の花を捧げる それっきりひとの名前を呼ぶことはない

0580.車窓から放る林檎が光るころ全能者たる兄の失墜

0581.守りたいものとは概念の国か 君は恋闕の刃を振るうか

0582.鈴鳴れば蔵の格子の夕風に水蜜桃の腐りが混じる

0583.すべて嘘だから笑って手を振るよ 淋しい国にお前はいない

0584.三界に月の光の絶えなむを君は知りつつ我屠るべし

0585.言い訳は赦さない 口縫い付けて指を封じて心臓を問う

0586.魂はいずこに宿る 炎天に影ばかり濃くさらされゆけば

0587.いつか君を殺した、ようにうずくまりぬかるみ孕む心音になる

0588.あなたのためならばあなたを殺してもかまわないほど 風を束ねて

0589.洋装は故国を棄てた訳じゃない 桃の実ひとつ武器として発つ

0590.白皙は冷淡 射抜け父祖の血の穢れただよう渇仰の身を

0591.鉄錆の涙を舌に受けしろいしろいうなじのあれだけ甘い

0592.神ならぬ男を仰ぎ自決する青年たちにはなむけの雪

0593.見たくないものばかりなのだね君よメチルアルコールをあおろうか

0594.弱さゆえ私は君の名を時に私を救う四文字で呼ぶ

0595.君はまだ世界を呪っていていいよ 三百年後にまた会いましょう

0596.初めてのキスは柘榴の味 そして少年のまま終わらぬ夜宴

0597.ただ一度まみえる影を待ちわびて輪廻の際を浅くたゆたう

0598.秋津野にいつしか影が立ちつくす私のはねた首を抱えて

0599.いっぴきの野狐変じても子をなせずあの荒ら屋が千年残る

0600.また君に会えたね 立派な鱗だね 村を沈めることはできたの?