BL短歌(〜550)

0501.幸福の死骸を敷いてきょうだいは桜の枝で肩を寄せあう

0502.その生をゆるそうという意を込めてあいしているよさあいきなさい

0503.もういないひとの血肉をたべている書庫のアルミの梯子の上で

0504.十枚の貸出カードを辿りきるまではあなたは失われない

0505.本棚の影であなたに触れたくてあなたになる練習ばかりする

0506.完全に愛せるものに自我はなくあなたはそこで眠りつづけよ

0507.うつくしいひとよあなたとの国の鏡を捨てて恋をしにいく

0508.女なら躊躇わずその喉元を切り裂けたろうくちづけながら

0509.もし僕が女だったら余さずにあなたのものになれただろうか

0510.やさしさで終われるだけの命ならどうして僕は愛するのだろう

0511.渦を巻く排水口の赤と白 十一歳は子供ではない

0512.先輩の体温ならば忘れなさい四月に降ればすべて淡雪

0513.彼の乗る飛行機が北極星と思い込んだら世界の果てへ

0514.春驟雨 終わりの知れぬ冷戦のさなかで視線が交わるときに

0515.詮索をしたがるみにくい僕のためきみは贄にはならないでくれ

0516.アルミブランケットに包まれば零下39度の夢をみるのだ

0517.何もかも見届けるその瞳にはほんとの別れは映らないまま

0518.ねえ君を標本にして廃屋の研究室に置き去りたいよ

0519.巡礼のごとくに杖にすがりけりリハビリテーション病棟の午後

0520.風葬のまっさらな骨を夢想して君についばまれる官能か

0521.だけど、もし、たら、れば、って言ってみていまの君にはきっと会えない

0522.プロテイン飲んだり筋トレ励んだりそーゆーとこが可愛いんです

0523.憎まれず生きてみたいと笑うしか知らないうつくしいその王子

0524.若き日の過ちだよと秘めるうちふたり白髪になってしまった

0525.あの人がお山で死んだあとのこと兄は座敷牢でほほえむ

0526.俺はもう殺したいのか死にたいかお前が憎いかわからないのだ

0527.飴玉は砕くものだね口の中血に溢れたら甘いって言う

0528.うすずみのつつとぼやけて消えていく夜明けの川に坑夫らの足

0529.人類の滅びを免れえぬというさだめにおいて精を放とう

0530.海岸線くもりさかしま渦巻いて子はしゃぼんだま吹くしか知らぬ

0531.少年として少年を抱くときまみえるものは水底の月

0532.その水を濾過させなさいし続けた純水だけで息をしなさい

0533.極北で獣の皮を剥ぎながらまだ死ねないと嘆くね いいよ

0534.生き残る罪悪感に潰されてしまったときは殺してあげる

0535.君のため死んだっていいぼくなのに真っ赤な川のほとりを歩く

0536.揺るぎなくうつくしいその眼差しに名を付けるなら喪失という

0537.まだ若い男は知っているわらうほかわらうほか紛れぬものを

0538.遠くへとただ遠くへと僕たちは来世は風になりたいですね

0539.透明なものに風に雨粒に割れた硝子の破片のように

0540.愛を知るときはたしかに憎しみも傍らにあり 葬列の午後

0541.無精子症だったらいいねひかりゆく円錐のその一点を見よ

0542.こうちゃんの和毛は冴えてみどりの日ひいじいちゃんが自殺したんだ

0543.悪霊の豚の口よりのたまはくわれまた神を恋うるものなり

0544.まなざしに耐えかね椿は落ちるだろ君が振り向かないまでの恋

0545.ブルーブルー 雲の真中に矢を放ち降りくるもので口を濡らせよ

0546.聖別の青とその身を投げ出せば君の背中の傷は輝く

0547.銀色の、青年チューブにつながれて真実のものしかふくめない

0548.また濡れてしまった爪でえ、い、え、ん、に背中の熱を君はうばった

0549.きみはまたうしなうのだね杯のクラックのよな口元である

0550.揚げひばり桜の国の君なれば老いゆくことの幸いであれ