BL短歌(〜350)

0301.左目を失明させたおれのことお前は憎むべきだったのだ

0302.ふらふらと境界線上ぼく・わたくし・おれ・誰かにはなれない、なれない

0303.背中には黒子が四つあるんだねもう神様の国へは行けない

0304.残虐を得るときヨブの名を呼べり父よエリエリレマサバクタニ

0305.ナイフ持ちつ路上のひとを狙いおり刺せば無邪気の証左であるか

0306.好きだ、など覚悟を決めた目で言うな ほんとうはただ死にたいくせに

0307.鋏には殺意を込めて絹を裁ちお前をいちばん綺麗に飾る

0308.夢を見る少女を胸にひそませてお前を獲得するために生く

0309.不具ならぬ身を恥じよとぞ月光の下でガリラヤ静かにひらく

0310.聖性は汚されるべし純白のベッドにただよう消毒液と血

0311.核戦争後のアメリカに生まれ落ちエイズで死ねるは幸運である

0312.薄日さす陵なだらか夢のあとに君の証しを抱いて生きる

0313.十五歳 日の目を当てることもなく森に沈めた恋はみずいろ

0314.「好き」は「好き」、ただそれだけのトートロジー。likeとloveの言葉遊びだ。

0315.口笛も風も寝息も青空も桜並木もいつか泡沫

0316.わざとらしい訛りを指摘されるたびすがりつく男の顔がよぎる

0317.すがりつく弟を捨て流れ着く山谷の夜にも温もりはある

0318.カノジョにはできないことをするための君をカレシと呼べるかどうか

0319.恋の終わり愛の終わりにまだそこに残った情をつまんで織って

0320.くたびれたお前を肩で支えつつセンター国語は文脈を問うな

0321.天よりのひかりを浴びてサンサーラこの一切をわかちあうべし

0322.淋しい目。「人間なんて」と繰り返し、繰り返し、信じてきたのだね。

0323.恋・ファッション・口調・生き方選び取ればオトコではなく女ではなく

0324.砂ツミのまんなかで靴をぎはなつ走るのやめれば風になるから

0325.きいたことない神さまの夢をみるそれを婚礼前夜というの

0326.天使にはなれなくたって脱け殻はどんな羽より軽いだろうか

0327.あのひとはおとこのひとだってわかるペプラムスカートのシルエットに、おちた

0328.言葉では殴ったあとは見られないなんて知らないままにえぐった

0329.人生を損なうものがここにあるからちゃんと目を逸らしていてね

0330.得るものがあるというのか普通からはるか遠くに隔てられつつ

0331.朝食のメニュウも忘れてしまうこと前世の罪だと君は言ったね

0332.回復を待って乾いた傷跡は空洞だから響くのでした

0333.諦めた目をした理由がそんなにも気になる? ただの思春期ですよ

0334.狎れきったジャブから不意にストレート「助けてくれるんですか、センセー」

0335.がんぜない好きには戻れぬグロテスク隠しとおすからそばにいさせて

0336.海底へ金平糖を振りまいて遊ぶ 祝福を知らぬ子ら

0337.かぎりなくうつくしいこの世界 この不幸を否みつづける呪文

0338.先に行けるわけでないのに僕たちはしろい翼を欲していたね

0339.傷口に手を差し入れて剣を生む種族であるぞ さあ決闘を

0340.貧血になったらチョコをあげるから気怠い君の甘い鉄錆

0341.甘いもの苦手なお前のために買うヴァンホーテンのカカオパウダー

0342.さらさらと手鍋に融けるチョコレート 雪玉で頬を切る予感して

0343.選民のお前がつまむ鉱石はチョコレートだと俺は知ってる

0344.通学路 投げつけられた爆弾の中から知らない世界の切符

0345.穴のないブラックボックスひもといて答えを導き出してごらんよ

0346.このたびは業務用チョコ品評会ようこそお越しくださいました

0347.埋み火を起こしココアを温めて宮廷人の媚薬を思う

0348.渡すのも渡せないのもいやだから明日学校爆発しないかなー_(:3 」∠)_

0349.「何でチョコくれなかった?」ってだって君、犬にチョコは毒じゃないか

0350.致死性の菓子をつまめぬお前にはかわりに革の首輪を嵌める