BL短歌(〜200)

0151.ストーブの衛星のその衛星の公転ばかり教室の自我

0152.階段を三段飛ばしに駆け下りる少年の日の魔法はありや

0153.祝祭の夜には山査子からめつつ南十字の先にいこうね

0154.せめてせめてさそりの炎に灼かれたら君の涙の一滴をくれ

0155.深呼吸いちにの合図も要らぬまま皮膚から溶ける彼我の境界

0156.死ばかりが常にとうといと六等星調光師の友と語りぬ

0157.どこにいても君が生きてるとわかるって信じているから、それじゃ、さよなら

0158.頽廃のために心があるのだと言いたくはない終末シェルター

0159.君が眼の絶対零度の荒廃に投げ込みたきはアンスリウム

0160.エクリプス 無冠の王たる我々の国には旧き神などいらぬ

0161.だいじょうぶここでは誰も気にしない竹下通りで君の手を引く

0162.僕よりも後には誰も見いだせぬように額の聖痕にキス

0163.お互いに特別であるしるしだけ刻み込んだら夜明けてしまえ

0164.「これこそが僕の選んだ道なのだ」繰り返し言う何度でも言う

0165.「幸せになろう、」引きちぎられた文には続きをしたためられる

0166.半身よ 君よ 囁きあうことは偏光板のひかりの洪水

0167.恋人でないのに恋人にするように互いに振る舞うこの距離はいけない

0168.「ひとときの気の迷い」だと断るの僕がタイプでないだけだろう?

0169.言い訳を若さとすれば許されぬこともないもの抱え生きてる

0170.金剛の燃える速度で眼差しを交わす 触れれば保てぬと知り

0171.それなりに愛していたよ鍵のない首輪を君に嵌めるときなら

0172.わかりやすく云うなら親密な関係 互いのカノジョにも詳しくて

0173.how to do 傷つけられない生き方を君は教える(ぼくは壊れる)

0174.その色は矢車菊を父として一代限りの青ざめた薔薇

0175.眠剤の褥に君は横たわる矢車菊の心臓抱いて

0176.骨ばった手首・二の腕・胸郭に耳を寄せても徐脈ばかりで

0177.赤い糸に繰られている傀儡の先をちぎらば僕のものだよ

0178.スイッチを押すことさえもできぬのか世界の果ての懺悔室でも

0179.捨てたいと願い捨てきれないのが情 帰らぬ故郷を君の名で呼ぶ

0180.少しずつゆるされていく予感あり彼を留める術なきと知る

0181.恋なんて一生しまい それでもなお君に触れると泣きそうになる

0182.こんなとき口ずさむのがアヴェ・マリアだなんて不完全な性を持て余す

0183.襟元のタイをほどいて口づけて心音越しに讃美歌を聴く

0184.僕は、とも口に出せぬほど縛ってよあなたの犬としてだけ生きたい

0185.君なしで生きていけないはずだった 嘘じゃなかった 嘘になっても

0186.完璧になりえないひと哀れんでみじめな自分が気持ちいい昼

0187.たかが枕だと売るものひとつしかない小屋で聖書を離さぬおまえ

0188.父の空位 革命の児のおまえなら神に喩える名もなきものを

0189.飛行士は一等星の輝きでぼくの眠りを導くでしょう

0190.好きなのはほころび(伏せたまつげとか泣きそうな目や噛んだくちびる)

0191.君のこと鏡写しの僕だって思うの間違いなら愛は何?

0192.満月はきみのあきらめきれなさであればいいのに星が涙で

0193.定型のやうな男の耳朶を噛み「おまへには黒いルージュが似合ふ」

0194.満天の星のどこかに願いごとまるきりおなじ僕はいますか?

0195.お前が俺の後を追うたびつらくなる白い図書カードに貸し出し処理して

0196.たったひとつのことしか考えられないでいるぼくの知性を返しておくれ

0197.缶コーヒー一本おごりの悔しさが忘れられない冬の幕開け

0198.こんなにもきれいな光が射す日なら名残惜しまず去り行けるだろう

0199.うつくしいひとだと思う 毒盃を呷りあざけるその仕草まで

0200.男とはこぶしの固さであるために泣くぐらいなら殴らねばいい