BL短歌(〜150)
0101.草原のみどりを掬いとる頬の呼吸の上下をひとごとに描く
0102.犬のよに躾けたじゃない欲情は昼下がりの脱衣場でしょ?
0103.懺悔室のカーテン越しの乳香の、……不実も不義もわれらは赦す
0104.調律はCDEFGAH カストラートの肋骨を弾く
0105.葛藤に悪魔の怯懦を含み 天使の潔い切っ先を欲す
0106.運命線乗換口で繋ぐ手はいまを棄てればまっさらになる
0107.父親にわれはならざり恋人は金環食の炎にねむる
0108.藤棚の庭から遠く もっととおく 僕はあなたを手放せるだろうか
0109.そう、いつかデミアンは君だったのだと理解できる日が来るようになる
0110.君は僕に手を差し伸べてくれただけ永遠を見いだしたのは僕だ
0111.蛇はかつて天使であったと囁いた接吻は死にあまりに近し
0112.船は惑星(ほし)の裏へ往く 移ろいびとよこれからすべてに僕を見いだせ
0113.あなただけ許せてしまうことがある 僕をさげすむその眼差しだ
0114.女々しかろう 君への欲に脅えてる 踏みにじりたい従属させたい
0115.こんじきの光あふれる煉獄で瞳灼かれたふくろうの倖
0116.猫のように足にじゃれつく父あやし教科書で読むアンシャン・レジーム
0117.内と外とふたつの剣に貫かれ「正しく生きよと言ったろう、君」
0118.たとえ君がぼくのため死んでくれなくとも愛しているよ ただ尊んで
0119.かなしみにまさるかなしみ/透明にうつくしいものよ罪を充たして
0120.消灯の後の踊り場シーツ持ち寄って「ごっこ遊びはお好き?」
0121.君とぼく死ねない同士で生きていて起きぬけ月の真珠を見てた
0122.きっとお前は「ものではない!」と怒るだろう。そう仕付けられた人形のくせ。
0123.君の名を知って世界は藍でなくただ一面の青空になる
0124.さざ波に砕けた運命の輪が揺れて包帯も濡れるここは血の海
0125.淋しさのやいばで裂いたプラナリアいつかことばをなくす夏の日
0126.ムカサリの夫婦袴に名を記し追い腹切りしまでが契りぞ
0127.棄てられぬ苦しみだけを目指すからあかるいところでみていておくれ
0128.押し倒されて屈辱に喘ぎなさいあなたのやり方で愛すから
0129.青ざめた額川面に盗み見る敗戦を鳴く蝉殻の森
0130.ひたすらの虚無に奇跡を見し日よりはるかの国の王こそ君だ 『悪霊
0131.神の目で見通す輪廻の何遍もおまえが僕をひとに繋ぐよ
0132.彼とならもう歯止めなど効きはせず破滅のきざはしを駈けてゆく
0133.血反吐にまみれ祈る 何ひとつ連れ去られぬように 眠り 歳月 死 へと
0134.幸いであるなら君は死ねばいい火の粉の花を祝いに束ね
0135.二十年傷を癒さぬ右腕で君を濾過して純化させるの
0136.パシオンの成就の果てに愛し子よ「あなたが僕を殺した」と言え
0137.恋じゃない 恋じゃない と唱えながら 君の作るシチューが美味しい
0138.「指一本触れずに(心臓に手を当てて、)この絡繰りを暴いてみなよ」
0139.全能感を不条理で引いて引いて引いて指を押し入れ少年解体
0140.君を君たらしめるその男性を(萌芽を)おいで、毟ってあげる
0141.触れあえば君は僕ではないことの小指の深爪にふるえる血
0142.加害者と被害者(そして共犯者)なき庭に咲くカレープラント
0143.理由など こんな僕さえ神様は愛してくださるのだとあなたが、
0144.僕なしで生きられぬのがまことならひとりで足りぬものを教えよ
0145.欲望と愛とは別の感情でそれでも君と歩みたいいま
0146.新月の酒の肴は蛍火のわずかにあかい魂の群れ
0147.いま書架に君の愛したヴェルレーヌ嘲り笑んで初恋は果てぬ
0148.かたちなどいらない ただ君のため死ねるだろうという確信がある
0149.頭まで穢れに浸かる泥沼で君の咲かせる蓮華が見たい
0150.御影石の寝台に夕映えは落ち(ぼく)をわかてる永遠である