BL短歌(〜100)

0051.嘘だけが煌びやかな君の部屋で信じる理由を探すしかない

0052.無意識に張り巡らした鉄条網 それでも手を取る 生きようとする

0053.絶望もまばゆさを増す十五の日兄は柘榴を喰うことにした

0054.孵卵器の温度表示に双頭の蛇の影見ゆ君憎む日々

0055.錯乱も殺意も過去の我が愛にかわいい人よ溺れて死せよ

0056.あるじとはどちらのことか剪定は指を刺される覚悟の上だ

0057.コールユーブンゲンの調書き換えていつか歌おうJe te veux(きみが欲しい)と

0058.夕暮れの音楽室より漏れいでる節くれだった乙女の祈り

0059.われひとと尋めゆかむかの山奥に稚児の都のあると聞きをり

0060.姉の鏡台から盗んだ血痕は爪から消えた 七つのふたり

0061.生きていてごめんなさいと泣くほどの罪だというのか君の恋とは

0062.吹雪の夜 身を寄せ合えば心臓の燃え盛る音が兄弟にひびく

0063.炎天下 兄縁側に身をちぢめ我にソルベをひと粒ねだる

0064.ヘルマフロディテの一族 ファルスとは父を殺せし汝の冠

0065.血の雨の降る薔薇月夜 これからは骨壺に散る思い出を喰む

0066.サイレンの響く病棟 全霊を奪い合うほかに行き場はいらぬ

0067.肋骨は完全である 卑属など望まぬ君を抱く夜のこと

0068.逆臣の涙を知ればこそ非道 文に記すを真実と思え

0069.犬の子よ我が身を喰らう欲望に鼻を鳴らすか 許しの出るまで

0070.組み敷かれのど仏をかじってやる 命じたのは俺 あらがうのも俺

0071.「辞書、どうも。鉛筆で線引くんだな」(gayに消し跡見つけたよ、なんて)

0072.みだりにとふと呟きぬ絡みつく足のかたさがいとおしくて

0073.剣のよに筒の強さを競わせて正装でゆく土手の花道

0074.水面で揺れてる星に触れるような燃えることなき「好き」は途絶えぬ

0075.普通でもフツウでなくとも君となら死ねる気がする この国に居て

0076.あぜ道で君にロミオと呼びかける 学芸会の練習ですよ

0077.仮面など打ち捨てちまえ蘭陵王 素の君でこそ討つ価値がある

0078.教科書は教えてくれない 関係をシロからクロへ返す言葉を

0079.シャネル5番、リップ、マニキュア、つけまつげ、実らぬ精、でシーツを飾る。

0080.言い訳にすがらないでよ 神様を愚直に信じる君が好きだよ

0081.遠ざかる車体に笑顔で手を振って目尻ひそかにあかねさす昼

0082.泥濘めば今宵ぼくらの戦場は思慕には遠い真綿の幸福

0083.月は翳り 格子をいじる指先は白々しくも我が美神(ミューズ)なり

0084.外殻ははぜてゆくべし炉の灰に対の鋼もひとくれとなりぬ

0085.紅の香りにほどけゆく薔薇はこの温室をかくす薬包(オブラート)

0086.ウォークイン・クローゼットの姿見で28cmのヒールでショーを!

0087.かわりたくなくても羨ましいのだと言い交わしずぶずぶと真夜中の舟

0088.支え合うようなふたりになれなくて共倒れする恍惚を待つ

0089.猫背とは醜いものと誰決めた 君はソファーで翼をたたむ

0090.クロッキー帳に描いた君でさえ蕩けそうな目を僕にはくれぬ

0091.学校や寮で過ごすあいだだけは若き日のあやまちをゆるしてね

0092.ぎりぎりにわかる擦過傷(ごめん、)苺のにおいの絆創膏貼る

0093.輪郭を保てぬ恐怖と快楽を知らない君は恋と呼びなさい

0094.事切れる最期の息をくれるならセックスも愛も何もいらない

0095.かすみたつ湖畔の若葉を纏足で駈けゆく妖精の取り替え子(チェンジリング・チルドレン)

0096.あんちゃんをけろや、と泣いた青年の戦後を撫でる 白髪を撫でる

連作 「地球人と宇宙人」

0097.レトルトのカレーは飽きた、でも固形宇宙食よりまだマシだろう

0098.「この星は異性愛が主流かよ」って言える君の血も赤なのか。

0099.地球人と宇宙人の違いなど探そうとしなけりゃわかんないとか

0100.「なんかさぁ、もっと異形のはずだったんだよ。周りがそう言ってたし」