BL短歌(〜50)

0001.慈しみも愛も他人に向けていい 負の感情はすべて僕のもの

0002.実にならぬ想いを針に内腿へ比翼連理の夢を描くよ

0003.放課まで醒めぬ眠りに見えたから肩に跡をつけた。……秘密だ。

0004.蟷螂と共に死にゆく虫のよにおまへの腹を食い荒らしたい

0005.冷え症の君の指先目で追うて言葉続かぬ二年目の冬

0006.桜ちょう花のあえかに立つ君は刀も持たずわれを狂わす

0007.足音に伽羅をかぎとる研究塔すれちがいざま顔を背けぬ

0008.「あいつには俺も苦労をかけたから」看取ったわけを友と偽る

0009.忠誠と呼べば綺麗だ彼をけがす心のうちを知りもしないで

0010.通じても結ばれぬ世の定めなら来世男女の身を期待して

0011.救済と死地をもたらす剣十字もて虚無の身を聖別したまえ

0012.桎梏へ己が手もちい繋げたと忘れたか、あがなえぬ羊よ

0013.十字架を背負い清さを語るひとにも汗の香をかぎわけた春

0014.ランボオとコクトオ片手に君はいつも僕を待ったねと気付く、今更

0015.うしなはれゆくソプラノの愛惜に青きにほひを刻め蓄音機

0016.寝台の聖セバスチャン肉を裂き裏切り責めた吾を赦すなゆめ

0017.おれが君を害せぬとでも思ったか「ごめん、好きだ」よりおれの目を見よ

0018.波に揺れ酔うた真夏の月の陰 船上の子らは供儀となりき

0019.蜘蛛の糸張り巡らせた僕たちの絡む因果に名前などない

0020.未分化の幼き眩しさ般若の面つけて立つには健やかなほど

0021.伏せた睫毛が重そうで、胸をつかれた昼休み、給水場。

0022.橙に染まる校庭かけぬけて背中の影をひとつにしよう

0023.穏やかに愛す日々など夢の夢 君を殺して永久を結ばん

0024.ますらをの誇りを宿す胸中へ刃を捧ぐこれが我が戀

0025.惜しみなく奪うも愛だ我がものにならぬと君が断るとても

0026.滅びゆく驕りの都 神にさえ引き離せぬと抱いて塩柱

0027.水菓子の皮が存外柔らかく躊躇った日に似た君の肌

0028.マスタードは辛いほうがいい キッチンで指を舐めるほど堕落しないよう

0029.「こちらにも一口よこせ」と鍋の夜、赤らむ顔は酒のせいだろ。

0030.宅飲みは口実なのだと知ってなお君の匂いに酔わされにいく

0031.地に深く眠りつづけた金剛の無垢のかたさも熱を帯びるか

0032.虚か実かおまへを飾る化粧(けわい)さへ手弱女の美をもたらせはせぬ

0033.どんなにか残酷だろう正しさにステロタイプを唾棄した日々は

0034.妹背より深く融けあう若子なれど禁忌を故に打ち捨てられぬ  『日出処の天子

0035.くちづけもピアノの腕も下手だよね明日ぼくらはひとを撃ちにいく  『エレファント』

0036.君がため投げ出す身など惜しくない何でもしようだから王となれ  『悪霊』

0037.剽窃にして祝福のキスふたつ地の果てまでもよすがとなろう  『カラマーゾフの兄弟

0038.腐葉土に互いの首輪の鍵埋めてもう戻れない夏の洗礼

0039.泣くことも赦されぬ性背負いつつ弱音を吐ける恋はいいよな

0040.漂泊の日も遠ざかるぼくたちは肩甲骨を撫で合うだろう

0041.浅ましき欲の行き着く果てにして惜しむ身ひとつないことを知る

0042.結局は普通の恋だ 僕たちは思考を交わす術を持ってる

0043.名付けたらそこで仕舞いの関係を第二ボタンと共にあげよう

0044.彼の澄んだ鼻梁を見ればバビロンに裁きくだした神の心地かな

0045.投石の痣をいやせる薬など持たぬかわりに君を抱きしむ

0046.毎朝に佇んでいる靴磨き いつかお前を買ってみたいよ

0047.ぬばたまの闇より深き夜の湿原 草葉に裸体はくぐもっている

0048.くちびるを寄せるにも似て奪う血はあまりにも甘く僕の身となる

0049.僕たちがたとえば対の肺となり息づくならば禁忌もないさ

0050.あるがまま生きる姿勢を求む世よ蔑むなかれカミングアウト